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『アンテナ』 by 田口ランディ

アンテナ (幻冬舎文庫)アンテナ (幻冬舎文庫)
(2002/06)
田口 ランディ

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加瀬亮君が主演してると言う事だけで見た映画、 『アンテナ』
この映画、加瀬君の熱演も助けてだけど思いの外興味深い物だったので、ベストセラーになった原作を
読んでみました。

原作と言うのは勿論映画より、より詳細であることは当然で、映画には無かった部分が多々あるのも当たり前。
で、この作品はというと、あの暗く重い映画を更に重くしたような・・・
色んな意味でヘヴィに書かれていて、この原作をそのまま映像にするとグロテスクなだけのホラーやオカルトに
なってしまうかもしれない・・・と言うような感じ。
と言うことで映画版はかなり美化されているとも言えます。
でもまぁ、あの短時間に、しかも要点だけを上手い具合に抜粋してまとめ、見てるこちら側の心に響くように
作られている点には改めて感心させられてしまうのですが。
それ程原作は、複雑で残酷で闇が深く、そして何と言ってもとにかくグロい。
性描写も悪夢も妄想も、いちいちグロテスク。
読んでいるだけでその暗く生臭い世界に引きずり込まれてしまいそうなぐらい・・・

人は「死」によってその存在が無くなる意味を理解する。
でもある日それが突然消えた場合、その「消失」をどう考えるのか・・・・
少なくとも主人公祐一郎の一家は、いなくなった妹の陰をそれぞれが追い続け、それぞれが妄想を膨らませ、
歪な家族となっていた。
そして祐一郎はSMの女王様、カオリに出会って溜め込んでいた物を解放し、妹の消失への自分なりの
対処法を何とか見出すのだけど、それまでの過程が何とも衝撃的で過酷。
映画でも祐一郎は、性欲を解放していくのに比例して前へ進んでいくのだけど、原作ではその様子が
もっともっと生々しく、なんともえげつない描写で描かれています。
それ程に彼の闇は深く、本来人が成長と共に得る正常な性欲を、無意識的にものすごい力で封印してきたと
容易に想像できる。
「人は性欲に支配されている」と言う言葉が出てくるほどこの作品を読む上で「性」を切り離すことは出来ない。
でもそれは決して猥褻な意味では無く、人として生きる当然のエネルギー源として書かれてるのだと
思うのです。
祐一郎は恐ろしいまでに目覚めた自分の性欲と向き合い、それを乗り越えて初めて、いなくなった妹と
まともに対峙できるようになった・・・・

この作品では終始、性欲も含めて人の奥底に眠る潜在意識について触れられています。
人はみな潜在的に様々な事に気付いているけど気付いていない・・・・気付こうとしていない・・・
この作品中では、それらに気付き向き合い、表現しているのが弟の祐哉とカオリなのです。
私自身は霊感が無いと思ってるけど、そう言う世界には興味もあるし科学では説明できない世界がある
と言うのも信じています。
この作品ではある部分非科学的で、そしてある部分とても科学的。
オカルトめいた部分もあれば、そうでないところもある。
きっと弟の祐哉とカオリは少なくとも霊感の強い人なんだろうけど、それらはあくまでも彼らの「妄想」から
来ているのだと説明されてるところもあるのです。
それがどちらかなのかは読んでる人の解釈に委ねられるところなんだろうけど、でもこの作品中にある
「直感は完全で、言葉は不完全」という一文に、私は凄く納得させられる。
だって実際、人の言葉より直感の方が頼りになったりするでしょ。
人って元々犬とか猫みたいに、祐哉やカオリみたいにもっと鋭かったんじゃないんだろうか・・・
これは以前から私が勝手に思ってることだけど。
本当はみんな何かを感じてる・・・みんなアンテナを持ってる・・・
それは「無意識」という物の中に納められて忘れられているだけで、本当は色んな事を見て、感じている・・・

世間体や理性を言い訳にして、色んな欲や思いを抑圧している現代の人間。
「家族の失踪」を軸に、か弱くそして強く、欲深い現代の人間の性(さが)があからさまに描かれたこの作品。
誰もが共感できる物とは思わないし、寧ろ嫌悪さえ感じてしまうかも知れないけど、私は映画とはまた違う衝撃を
改めて感じ、とても興味深く読むことが出来ました。


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